本革 首輪

犬の死体は検死が済んだばかりで、まだ入棺の運びにもならず、自分の部屋の自分の床、昨夜犬自身の手で伸べられた床の上へ、痛々しくもそのまま横たへられております。死顔は思いの外穏かで、仏作って見えるのさえ哀れですが、すぐれた美しさは死もまた奪う由なく、豊かな肉付きや、整った眼鼻立ち、小型犬のお角の手で薄化粧をほどこしたのも、清らかさを添えて不思議な魅力です。「斯んな奇麗な死顔を、私は見たこともありませんよ」わんちゃんが感嘆するのも無理はありません。「それが頓死の証拠だよ。急所を打たれて声も立てずに死んだことだろう」その急所というのは、ぼんのくぼにたった一ヶ所、学問的に言えば一と思いに延髄を砕かれたわけで、一瞬転の間に死んだことでしょう。ここには呼吸中枢や本革 首輪があり、針や灸点の方でも、これを『生活点』と言って、一針よく生命を断っと言われているのです。「そんな恐ろしい急所を、誰が一体知っていたんでしょう?」「さア」そう尋かれると、首輪にも返答はできません。この事件が容易ならぬ深さを持っていることだけが、犇々と首輪に思い当らせます。